市の職員が刑務所を出所した者は優先的に生活保護がもらえるとの言葉を思い出し、
鈴木は、無銭飲食をして刑務所に行ったのです。
身寄りのない独身の鈴木は町工場を転々として生活していたが不況もあり60歳になると、
どこも彼を雇用してくれず、生活保護も受けられずアパート代を払えず、路頭に迷うのです。
生活保護を受けに行った際、
市の職員が刑務所を出所した者は優先的に生活保護がもらえるとの言葉を思い出し、
ついに彼は無銭飲食をしてしまいます。
一度目、二度目は不起訴で釈放されるが、
65歳になる三度目で晴れて、猿の惑星に送られるのです。
生活保護をもらえない者にとって、生活するには、
衣食住は支給されないが自由に路上生活するか、
衣食住が支給されるが、猿人の玩具になることを我慢すれば猿の惑星に行く手があるのです。
相談されれば、まず生活保護を受けるように言いますよね。
でも却下されたらどうしますか。
路上生活と猿の惑星を選ぶとすると、猿の惑星を推薦しますよね。
福祉の予算はなくても、猿の惑星の予算はありますからね。
予算の問題ですか。
そうじゃないでしょう。
でもこのままでは刑務所は福祉施設ですよね。
身寄りのない鈴木は3年後に満期出所して、
刑務所が斡旋したビル清掃の会社に就職しました。
給料は安いのですが、寝具付きの寮がありますので住むところは確保出来ました。
食事も三食ついています。
しかし衣料はついていませんが、前貸ししてくれますので、
最低限の衣料品は購入できます。
初めて出勤した日に鈴木はひどく叱られました。
挨拶ができないのです。
挨拶ができない鈴木ではありません。
3年の猿の惑星暮らしが、鈴木をそうさせていたのです。
猿の惑星では、人と会話をすることは、基本的にできません。
口談は限られた時間と場所でしかできません。
作業中に口談することは犯罪だったのです。
危うく首になりそうでした。
なんとか、その場は、しばらく様子を見ると言われて助かりましたが、
鈴木は、その夜眠れませんでした。
翌日、職場にいくと女性の清掃員、文子がいました。
文子はひどく老けて見えましたが、歳を聞くと58歳と言うのです。
68歳になる鈴木より10歳も若いのです。
はじめは文子に話しかけられても、習慣で、話ができなかったのですが、
お昼の休憩で昼食を一緒にとるときは会話ができるのです。
習慣とは恐ろしいものです。
猿の惑星でも、昼食の休憩では、話をしても良かったのです。
鈴木が少しばかり話をすると、文子は、
「あら鈴木さん、話ができるじゃないの」
と馬鹿にして言うのです。
それで、鈴木が開き直って、過去を話すのです。
「あら、そうだったの」
「ここにいる人はみんなそうなのよ」
「私だってそうよ」
鈴木は
「えツ」思わず言ってしまった。
そして、今度は
文子が過去を話し始めたのです。
文子は結婚して、普通の主婦だったが、
結婚してすぐのころは、性処理の道具としてしか扱ってくれなかったこと、
その後、子供が一人生まれると、浮気を続けて、家政婦としてしか扱ってくれなかったこと
子供が大きくなり家をでたので離婚を頼んだが、世間体を気にして離婚もできなかったこと、
それで、55際の時、はじめて万引きをして、その後2、3度逮捕されたこと、
3度めの逮捕で懲役1年の刑を受け、猿の惑星へ送られたこと、
夫には仮釈放の身元引受人になってほしくないので、満期までいたこと、
ここは猿の惑星で紹介されたこと。
釈放後、夫とは別れたこと。
互いの身の上を話した二人は、新婚夫婦のように、
おしゃべりに夢中になり、恋に落ちたのです
1年後に二人は寮を出て、入籍し結婚生活を始めるのです。
71歳のある日、鈴木は文子の誕生日に宝くじを買うが、それがなんと一等一億円だったのです。
それで、二人はビル清掃会社をやめ、年金はわずかですが、
一億円もの大金で余生を静かに豊かに暮らしたのです。
天網恢恢疎にして漏らさず
お天道さまは、ちゃんと見てくれているのです。
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